今年も的中!? よくわかる医師国家試験の解説。
平成27年2月7-9日に第109回医師国家試験が行われ、今年も病理学に関する問題がたくさん出題されました。
医学生の皆さんもぜひ病理をよく学んで、国試を攻略しましょう。
それでは代表例について解説します。
D-41 64歳男性。右片麻痺を主訴に来院した。6か月前から右足を引きずるようになった。2週間前から右手で箸を持ちにくいことに気付き受診した。意識レベルはJCS I-2。脈拍68/分、整。血圧164/88mmHg。右同名半盲と右片麻痺とを認める。腱反射は右側優位に両側で亢進し、Babinski徴候は両側で陽性である。頭部造影MRIと病変部のH-E染色標本を別に示す。
診断はどれか。
a 膠芽腫
b 髄膜腫
c 脳膿瘍
d 悪性リンパ腫
e 転移性脳腫瘍
さて、ここからが私の解説です。
画像は左後頭葉に形成されたリング状造影を示す占拠性病変で、周囲に浮腫を伴い、また側脳室が変形しています。画像所見だけで否定できる選択肢は、bの髄膜腫しかありません。つまり、正答を得るためには病理画像を読めないといけません。
病理所見ですが、低倍率と高倍率の2枚が提示されています。低倍率では青く縁取るような構造が蛇行しながら走行しています。赤く点々と見えるところは赤血球が充満した血管であり、血管が豊富であることがわかります。高倍率像では青く縁取るように見えたところが拡大されていますが、紡錘形の核が高密度に並んでいる様子がわかります。また縁取りの内部は核がほとんど見えません。実はこの領域は壊死に陥っており、壊死を取り巻くように紡錘形の核が放射状に密に配列しています。これを偽柵状壊死といい、膠芽腫に特徴的な組織学的所見です。ということで、解答は aの膠芽腫になります。
膠芽腫は星状膠細胞(アストロサイト)系の脳腫瘍の中で最も悪性度の高いタイプのものです。偽柵状壊死や微小血管増殖の存在は膠芽腫の病理学的診断基準に挙げられています。
なぜ壊死を放射状に取り巻くように腫瘍細胞の核が並ぶのかについては古くから専門家の間で興味を持たれていましたが、私の解釈は以下のようなものです。膠芽腫の細胞は遊走能が極めて高いので、脳組織の中をかなり自由に浸潤していきます。このことが膠芽腫の治療を難しくしており、予後の悪さに関連しています。一般にどんな悪性腫瘍の場合でも腫瘍が増大すると、次第に腫瘍の中心部の微小環境が悪化して、壊死に陥る腫瘍細胞が出現してきます。膠芽腫でもそのような状況が生じるのですが、膠芽腫の細胞は先にも述べたように遊走能が高いので、環境が悪くなってくるとそこから逃げ出すべく移動します。でも壊死に陥った細胞はもはや動くことができません。そこで壊死組織は取り残され、まだ生きている細胞が壊死巣から遠心性に遊走していきます。その姿がこの組織像を作り出していると考えられます。いわば膠芽腫の性格を反映したものであり、診断的価値の高い所見なのです。
いかがですか、医学生の皆さん。病理所見は静止画像のようでありながら、実にダイナミックな情報を含んでいるのです。いちばん病気の本質の近いところに立っているのが病理医です。医学生の皆さんにおかれましては、ぜひ身近な病理の先生のもとを訪ねて、医学の楽しさや奥深さを学んでみてはいかがでしょうか。
2015/02/10